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頬杖日記

子どもと読んだ絵本、遊び、自分の勉強、そのほか面白い・便利と思ったものを書いています。ボストン在住。

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エリック・カールの愛情溢れる絵本制作:The Art of Eric Carle読書メモ

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カラフルな絵と楽しい仕掛けで子どもたちを夢中にさせる絵本作家、エリック・カール。

 

彼の作品の源泉ともいえる物語を知ることができる回顧譚『The Art of Eric Carle』を読みました。

 

自伝や編集者からの寄稿文を通して、絵本作家エリック・カールがどのように生まれたのか、そして彼が絵本に込めた想いを知ることができ、エリック・カール作品への愛着が深まる一冊でした。

 

The Art of Eric Carleの概要

この本には、エリック・カールの自伝、編集者らから語られる寄稿文、コラージュ作品の作り方、60点以上におよぶアート作品の写真集がまとめられています。

 

様々な側面からエリック・カールを知ることができる盛りだくさんの本です。

 

エリック・カールから語られる自伝

第1章は、エリック・カールの生い立ちが、写真と共に紹介されています。

 

かわいらしい幼い頃の姿や子どもの頃の絵も見どころです。

 

エリック・カールは1929年、ドイツ移民の両親のもとニューヨークで生まれました。

 

その後、5歳の頃に両親に連れられドイツに戻り、23歳で再びニューヨークに来るまでをドイツで過ごします。

 

ドイツでは、彼が「最悪の悪夢時代」と回顧する学校時代を送り、第二次世界大戦時中には疎開も経験します。

 

戦後は美術を学び、デザイナーとしてキャリアをスタートして、1952年にニューヨークに戻りました。

 

ニューヨークに到着してすぐに、後にスイミーなどを描くレオ・レオニ (当時はグラフィックデザイナー) に出会っています。

 

レオ・レオニの紹介を経て、アメリカで仕事を始めたエリック・カールは、広告やデザインの仕事をしていました。

 

その後、40歳手前である絵本*1の挿絵を担当したことから、絵本作家としてのキャリアがスタートします。

 

この章では、彼の人生が、出会った人々との交流を軸に語られています。


様々な人々との出会いを通して、絵本作家としてのエリック・カールが誕生した過程を、まるで映画を見ているように追体験できます。


特に印象深いのは、学校が大嫌いだったエリック・カールが、自分の子ども時代を振り返りながら「本を読む子どもたちの背中を押してあげたい」という強い思いを持って絵本を作り続けていたことです。

 

エリック・カールの絵本制作では、遊びながら読み、読みながら遊べる本というコンセプトが徹底されています。

 

例えば、『はらぺこあおむし』のように小さな穴があったり、『さびしがりやのほたる』のように光らせてみたり、遊び心満載の絵本を作り出すことで、子どもたちが自然と文字や物語の世界に触れるきっかけを作ろうとしていました。

 

また、『はらぺこあおむし』では曜日や食べ物が分かりやすく描かれており、『1, 2, 3どうぶつえんへ』では、数え方や動物の種類を楽しく学べるよう工夫されているなど、エリック・カールの絵本には、子どもたちの学びを育む要素が意図的に盛り込まれていることにも改めて気づかされました。

 

彼の絵本が、絵やストーリーが魅力的なだけでなく、子どもたちの心に寄り添い、勇気を与える力強いメッセージを込められていることを知って、エリック・カール作品への愛着が深くなりました。

Central to my work is this: I am fascinated by the period in a child's life when he or she, for the first time, leaves home to go to school. What a gulf a child must cross then: from home and security, a world of play and the senses, to a world of reason and abstraction, order and discipline. I should like my books to bridge that great divide.

- The Art of Eric Carle, P38

 

エリック・カールゆかりの人々からの寄稿文

寄稿文には、長年の編集者であり『はらぺこあおむし』を世に送り出したアン・ベネデュース、ドイツの編集者であるヴィクター・クリステン、ちひろ美術館の創設者兼常任顧問の松本猛からの文章が寄せられています。

 

アン・ベネデュースは、絵本作家としてスタートを切ったエリック・カールの最初の編集者でした。

 

A special relationship between author and editor is crucial to the success of a book.

- The Art of Eric Carle, P36

 

と語るほど、エリック・カールの絵本作家としてのキャリアにおいて重要な方で、二人三脚でエリック・カールのアイデアを形にしてきました。

 

『はらぺこあおむし』の制作秘話では、本のシミから着想を得て、蝶々になるあおむしのお話になるまでの2人の間でのやりとりが、生き生きと語られています。


また、『はらぺこあおむし』の出版に、日本の偕成社の存在が不可欠だったことも語られていました。

 

ヴィクター・クリステンからの寄稿文では、エリック・カール絵本のストーリやアート作品の魅力が存分に語られています。

 

エリック・カールは何度も来日しており、その時に訪れた数々の絵本美術館は、アメリカマサチューセッツ州にエリック・カール美術館を設立するきっかけとなりました。

 

その日本の絵本ミュージアムのひとつ、ちひろ博物館の創設者兼常任理事の松本猛さんがエリック・カールを尋ねた時のお話も入っています。

 

日本の絵本美術館とエリック・カールの縁について、2023年にアメリカのエリック・カール美術館で開かれた企画展 Eric Carle ❤️ Japan のサイトから引用します。

Carle made five trips to Japan during his lifetime. It was the picture-book museums he and his wife Bobbie saw there—Chihiro Art Museum in Tokyo, Anno Mitsumasa Art Museum in Tsuwano, and Kazuo Iwamura Picture Book Hill Museum in Nakagawa—that became the inspiration for the establishment of The Carle. The six Japanese maple trees outside our Great Hall are a reminder of this important connection.

- Eric Carle ❤️ Japan | Carle Museum

 

エリック・カールの絵本のアイデアはどこから生まれるのか

エリック・カールがInternational Children's Book Dayに米国議会図書館で行った講演の内容が書かれています。

 

講演内容は、エリック・カール作品のアイデアはどのように生まれるかについて。


それには、彼の生い立ちや出会った人々が深く関わっており、第一章の自伝で語られたことを振り返りつつ読むことができます。


本章の冒頭では、エリック・カールが読者から受け取った手紙が紹介されているのですが、子どもたちからの、素直で、面白く、時には尊大な感想がとてもおもしろいです。

 

コラージュの作成手順と、60点以上のアート作品

巻末 (と言っても本の半分ほどの分量) は、素晴らしい写真集になっています。


最初に、コラージュの作成手順が写真付きで紹介されていて、やってみたくなります。

 

その次のページからは、これまで出版した絵本からのアート作品が、これでもかというように、60点以上載せられています。

 

眺めるだけでも美しいですし、まだ読んだことのない絵本の発見にもつながりました。

 

最後に年代別の絵本リストも付属しており、次はどれ読もうかと子どもたちと話が盛り上がりました。

 

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全体を通し、エリック・カールの魅力を再発見できる一冊でした。

 

本書を読むことで、エリック・カール自身や彼の作品の魅力を深掘りでき、また、まだ知らなかったエリック・カールの作品を発見することができました。

 

絵本制作への情熱や、作品に込められた想いを知り、彼の作品をさらに楽しく味わえそうです。

 

日本語訳『色彩の魔術師 エリック・カールの絵本とアート』発売

2025年1月に、偕成社から日本語訳が販売予定です。

 

目次を見ると、原作コンテンツからさらに寄稿文が増えているようです。

 

エリック・カール絵本美術館の創設の話など気になる…!

 

以下、作品紹介文です。

世界中の子どもたちに愛される絵本『はらぺこあおむし』の生みの親エリック・カールが、生い立ち、影響を受けた人々、絵本づくりの秘密、作品への思いなどを余すところなく語った自伝・講演録などを収録しています。また、絵本作家カールを世に送りだした編集者アン・ベネデュースや、エリック・カール絵本美術館の関係者などの解説によって、本人と作品の魅力にせまります。絵本以外のアート作品も見どころの一つです。

<目次>
はじめに……レナード・S・マーカス
エリック・カール自伝……言葉と写真でつづる人生
熟練のなせる技……アン・ベネデュース
エリック・カール――子どものためのアーティスト……ヴィクター・クリステン
エリック・カールのスタジオをたずねて……松本猛
絵本のアイディアはどこからくるのか……米国議会図書館でのエリック・カールの講演録
本をこえて……H・ニコルズ・B・クラーク
夢をつくる――エリック・カール絵本美術館の創設……アレクサンドラ・ケネディ
エリック・カールの制作技法
エリック・カールのアート……絵本のイラスト
エリック・カールの”アート・アート”……実験的な抽象作品
エリック・カールの本
自画像

- 偕成社 色彩の魔術師 エリック・カールの絵本とアート

The Art of Eric Carle

 

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*1:Brown Bear, Brown Bear, What Do You See? by Bill Martin Jr. / 1967